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福岡高等裁判所 昭和34年(ラ)103号 決定

抗告人 長崎中央協同組合

相手方 長崎市長

原審 長崎地方昭和三四年(行モ)第三号(例集一〇巻四号81参照)

主文

原決定を取り消す。

別紙目録記載の家屋に対する相手方長崎市長の昭和三四年三月一四日付除却命令に基く代執行の執行は停止する。

申立に関する総費用は相手方の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由は別記のとおりである。

二  記録によれば、抗告人らの本件申立は理由があると認められるので、右申立を却下した原決定を取り消し、本件申立を認容すべきものと認め、民事訴訟法第九五条第八九条に従い主文のとおり決定する。

(裁判官 鹿島重夫 泰亘 山本茂)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

相手方の別紙表示の家屋に対する昭和三十四年三月十四日付除却命令に基く代執行は、

これを停止する。

旨の御決定を求めます。

抗告の理由

一、本件抗告をするに至つた経過は、相手方は、抗告人長崎中央協同組合(以下組合と称する)が所有し、組合員一〇五名が各戸一駒乃至二駒を占有使用している別紙表示の家屋十一棟(一一五戸)の撤去を目的として、原審申立人一〇五名(組合を含まず)に対し昭和三十四年三月十四日左記内容の除却命令書を交付し、且つ代執行を為す旨の戒告書を送達した。

左記

「道路法第九十一条第二項の規定により準用する第七十一条第一項第一号の規定により、左記の通り物件を除却することを命ずる。

一、除却物件 市道二九四号線中西浜町電車停留所より思案橋電車停留所に至る歩道二二八坪七六の上の仮設店舖其他工作物

一、除却期日 三月二十日まで

理由 前記各物件は道路法第三十二条第一項の規定に違反しているからである。

二、右除却命令は左記に陳述するように明かに道路法の適用を誤つた違法があり、憲法第二十九条同第三十一条同第十四条に違反すること明かであるから、その旨詳細に述べて原審裁判所に右代執行の停止を求めたところ、原審裁判所は停止を求める緊急性がないという理由だけで、申立人等の申立を却下した。

三、右原審の決定に対し、抗告人外原審の申立人等一〇六名は即日右理由を具して最高裁判所に対し民事訴訟法第四一九条の二によつて特別抗告を為したところ、同裁判所は昭和三四年五月十八日付決定を以て「執行停止申請の却下決定に対しては民訴四一〇条によつて抗告すべきである」と指示したうえ、右特別上告却下の決定を為した。

よつて最高裁判所の判示に従い民訴四一〇条に基いて本件抗告を申立てる。

第一、争議の概況

一、抗告人組合は、戦災者及び引揚者の相互扶助を目的として昭和二十四年九月二十九日設立された事業協同組合である。

二、本件土地については、昭和二十七年七月十五日組合と相手方と協定の上、戦時中の疎開跡約二五〇坪を前記戦災者及び引揚者の更生を目的として使用料坪当一ケ月金百円、使用期間昭和二十九年四月一日より昭和三十三年十二月三十一日までとして使用することになつたものである。

三、昭和二十七年七月から昭和二十九年五月までに、組合は、右土地の上に、相手方及び長崎県の指示する規格に従い工事費約二、四〇〇万円を以て防火本建築の木造陸屋根葺弐階建店舖十二棟を建築し、各棟を二駒乃至二十駒に区切つて、各一駒宛を原則として組合員に使用せしめたが、相手方の申入により昭和三十年四月右のうち一棟(九駒)を撤去し、現在残存するものは、本件家屋十一棟(一一五駒)である。

四、かくて組合員は、本件家屋を生活の本拠として各自の商業を営み、今日に至つたが、その生活状況は類別して左の通りである。

(一) 世帯数(組合員数)  一〇九名

家族数        四一六名

雇人数        一一八名

合計       六四三名

(二) 店舖及居宅としての使用 八二戸

(内住民登録を有するもの 一三戸)

店舖のみの使用     二七戸

(三) 許可営業の店      一〇戸

其他の商店       九九戸

電話を有する店     一五戸

五、ところが相手方は、組合及び組合員一〇五名に対し昭和三十三年十二月十三日付除却命令を以て本件建物の除却を命じ、かつ、代執行を為すべき旨戒告を為した。(第一項)

相手方は右除却命令の法的根拠を道路法第四十条及び同法第七十一条に拠らしめていたが、本件土地は道路法にいう道路ではないので、右除却命令並に戒告は効力を有するものでないから、組合は相手方に対し行政処分無効確認の訴を提起したところ、相手方は右行政処分の違法を認め、同年二月十九日右除却命令並に戒告を取消した。

六、なお相手方が市道として認定した路線に含まれる土地は未だ完全に市有地となつておらず、その一部に私有地であり、その地目も殆んどすべて「宅地」のままである。

七、次で、相手方は同年二月九日臨時市議会を招集し「市道路線を認定し及び廃止するの件」を附議し、右市議会の決議を経て市道の路線を認定し、表面の形式的手続をびぼうしたうえ、同年三月十四日付を以て組合員等(組合を含まず)に対し、第二次の除却命令及び戒告を発した。

八、よつて、原審申立人等(組合及び組合員)は次に述べる理由に基き、相手方に対し、長崎地方裁判所に前記行政行為の無効確認の本訴並に代執行停止申請を為したが、同裁判所が右代執行停止を却下するや、我が意を得たりとし、相手方は直ちに原審申立人等に対し、本訴及び前記特別抗告の取下を強要し、右相手方の要求に応じないときには直ちに除却する。右要求に応ずれば、除却は六月十五日まで延期する」旨原審申立人等を恫喝し、五月十一日から十三日にかけ強要撤去に着手し、百数十人の人夫を使役して組合員等の店舖を破壊し始めたので、大部分の組合員は泣く泣く右訴の取下書に捺印するに至つた。

かくて右強迫により、やむなく訴の取下をした者九十五名、右取下に応ぜず遂に店舖を破壊された者十名で、右十名の者はその業を失い四散の状態で現在どこに行つたかわからない者もいる始末である。

第二、抗告人の主張

(除却命令の無効原因(一))

一、本件除却命令の目的物件である別紙家屋十一棟は現在なお組合の所有であり、右建物は昭和三〇年八月二七日長崎地方法務局において原告組合名議を以て保存登記が為され、今日に至るも変更がない。

二、右建物は、昭和三〇年八月二七日長崎地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第一一六号仮差押決定により債権者株式会社十八銀行から仮差押を受け、次で同年一〇月二五日長崎地方裁判所昭和三〇年(ヌ)第九二号強制競売開始決定に基き、債権者株式会社十八銀行のために差押えられ、現に繋属中である。

三、然るに、相手方は何等正当の権原なしに昭和三四年五月十一日から十三日までの間に右建物の一部(一一棟一一五駒のうち一〇駒)を強制破壊し残存部分を同年六月十五日に強制撤去する予定である。

四、右は前記昭和三十四年三月十四日付除却命令に基く代執行によるものであるが、右除却命令及び代執行の戒告は組合員各個人に対して為されたのみで、所有者たる組合には為されておらない。にもかかわらず、組合所有の本件家屋を破壊し、また破壊しようとするのは違法である。

(同上無効原因(二))

五、組合以外の抗告人は、本件家屋一一棟一一五駒のうち、各一駒を使用しており、組合に所定の建設費を完済するときは、その部分の所有権を取得する期待権を有するものであるが、前記のように右家屋がいづれも仮差押をうけ、かつ強制競売進行中のもので所有権の移転ができない状態にある。

従つて、原告等は現在のところ右家屋に対しては一部分についてのみの使用権を有するに止まり、何等処分権を有するものでないこと、前記仮差押決定並に強制競売開始決定によつても明確である。

六、いうまでもなく、除却命令は、それが道路法に基くものたると其の他の法律に基くものたるとを問わず、すべて当該家屋乃至工作物の所有者に対して為されるもので、当該家屋等に対し処分権を有しない者たとえば占有者又は賃借人等に対して為さるべきではない。

ところが相手方は抗告人等各人に対し、その権利に属しない右家屋一一棟一一五駒にわたり不当大量の全体的除却を命ずる除却命令及び戒告を発して抗告人等に絶対不可能の行為を強い、これに基いて代執行を為し、無惨にも抗告人等の使用部分を強制破壊した。

七、一般民事上の請求においてすら、目的物件の確定がない限り、その請求は許されないのに行政権をもつて個人の財産権を侵害する除却命令の如き、その点、特に厳格に解すべきにかかわらず、相手方はその内容すら確定せしめず、抗告人等に対しその権利義務のない広汎な範囲について責任を負わせるが如きは違法というべく、かかる行政行為は無効であること明かである。(田中二郎「行政行為論」八九頁以下)

八、(同上無効原因(三))

右除却命令の理由は、

「前記物件(本件家屋)は、道路法第三十二条第一項の規定に違反しているからである。」

というにある。

九、しかし、道路法第三十二条は、道路法にいう「道路」の上に同法第一項に掲げる物件を設け「道路」を使用する場合における規定で、本件のように「道路」となる前から存在している家屋に対して適用あるものでない。

また、同法第一項にその適用範囲の物件を限定しており、これに含まれない本件家屋に適用すべきでないい。

一〇、即ち道路法による「道路」の上に存在する道路占用物件(法第三十二条第一項第一号乃至第七号で限定された物件)に対しては、法第三十二条第一項を適用すべきであるが、本件土地が道路法にいう「道路」になる前から存在している本件家屋に対し、しかも道路占用物件でない本件家屋に対して法第三十二条第一項の適用をすることは明かに法の適用を誤つている。

一一、「道路」になる前の土地に存在する家屋につき、右土地を道路とする必要から、これを除却するためには当時としては、或は特別都市計画法第十五条に拠るべく、或は同法の準用する耕地整理法第二十七条を適用することがありうるであらうし、又、事態によつては、土地収用法第五条第六条によつて除却を命ずることがありうるであらうが、本件の如くこれに道路法第三十二条第一項の違反として同法第九十一条第二項同第七十一条により除却を命ずることは違法である。

(同上無効原因(四))

一二、本件除却命令は「道路法第九一条第二項の規定により準用する第七十一条第一項第一号の規定により左記物件を除却する」という。

しかし、同第九一条は「同法第十八条第一項の規定により、道路の区域が決定されただけで、まだ道路の供用が開始されておらない状態」即ち、「道路予定地とした状態におけるその土地の管理方法についての規定である。

一三、また同条第一項は「道路管理者が当該区域内にある土地について権原を取得する前」の状態における規定であり、同条第二項は「権原を取得した後」の状態における規定である。

ところが本件において当該区域内における土地については、未だ個人所有のままのものが相当あり、道路管理者としてその土地についての権原を完全に取得したものといえないから、法第九十一条第二項を適用することは不当で、法律の適用を謬つた除却命令であるから無効である。

一四、次に前述のように法第九十一条は「道路の区域を決定した後」「道路の借用が開始されるまで」の間に発生した事態に対する管理方法を規定したもので、未だ道路の区域を決定せざる以前に生じた事態に対するものでない。

従つて相手方が本件土地につき表面、形式的に道路の区域を決定したのが昭和三十四年二月十四日で、相手方と組合との間に本件土地についての使用契約が成立し、組合が本件土地の使用を始めたのが昭和二十七年七月であるから、右事態に対し本条を適用することは法律の適用を謬つた違法がある。

(同上無効原因(五))

一五、本件除却命令書によれば、本件除却命令の理由を道路法第三十二条第一項に求め、これを法第九十一条第二項によつて準用する法第七十一条第一項第一号に結びつけている。

つまり、法第七十一条第一項第一号にいう「法律の違反」は「法第三十二条第一項の違反」というのである。

しかし、本件につき法第三十二条第一項を適用することの違法はさきに述べた。(同上無効原因(三))

一六、組合は相手方から本件家屋の所有を目的として本件土地を一定の使用料をもつて使用を許され、今日に至るまで使用収益しているので別段法律の違反乃至は法令、命令、規定等の違反はない。しかも、本件土地に建築した家屋たるや、防火構造の普通家屋で、その設計構造等すべて相手方及び長崎県の指示に基いて建築し、その工事費も金二、四〇〇万円にのぼり、現在においてすら、その債務は完済しておらない状況にある。

一七、かかる状況における本件土地の使用関係は、前述の如く一般取引の通念に照し民事上の賃貸借関係に類似したもので右土地使用についての協定が成立した当時は、本件土地は疎開地跡の宅地そのままの状態で、しかも現在もそうであるが、その当時はさらに個人所有の土地が多く地目もすべて「宅地」ということになつていた。

従つて組合等抗告人において本件土地を継続して使用するのは正権原に基くもので、何等違法はなく、これに対し道路管理者として法第七十一条第一項を適用し、除却命令を発することは法律の適用を謬つたものといわなければならない。

(同上無効原因(六))

一八、前述の如く相手方が本件土地につき形式上、表面、路線の認定を為したのが、昭和三十四年二月十四日である。仮りにそのとき本件土地が道路予定地になつたといつても、本件土地につき相手方と組合との間に土地使用契約が成立したのは、昭和二十七年七月であるから、この法律関係につき道路法を適用することは法律不遡及の原則に反するもので、本件除却命令は無効といわねばならない。

一九、相手方は、本件土地の使用関係整理のため、しきりに道路法を引用するが、大体道路法は道路に関し路線の指定、認定及管理並に保全等を目的とするもので、原則として先づ道路であることを前提としており、直接当該土地を道路とするための収用関係を規定したものでない。即ち道路とするために土地を収用し、その地上の権利関係を整理するためには一般法として土地収用法が存在するから(土地収用法三ノ一)本件土地の上に存する権利関係を整理するには同法第五条第一項第一号によるべきで、右土地収用法に拠れば補償を必要とするからという理由で補償なしで取上げる方法として無理に道路法を適用しようとするのは妥当でない。即ち、本件除却命令はその意味からしても法律の適用を謬つている違法がある。

(同上無効原因(七))

二〇、相手方が為した形式だけの「路線認定」の効力であるが、道路法第八条によれば「市道とは市の区域内に存する道路で、市長がその路線を認定したもの。」ということになる。

即ち路線を認定するについては先づ市の、

「区域内に存する道路」であることを前提とすること法文上明かである。

市の区域内に存する道路とは、市の区域内にあつてその路線の上に人畜又は車類の通行すべき人工的設備(広義の道路)ができている状態でなければ道路とはいわれない。

即ち、本件のように、宅地の上に防火建築の家屋が建ち並んでいて、そこで六百人に近い人が生活している状態のところは「道路」でない。

しかも、本件土地の一部は個人所有の宅地であるから、これを路線と認定することは、法第八条第一項に違反して無効である。

もとより、この点に関する行政解釈は色々あるが、条文そのものを忠実に解するときは、この考え方が正しいと思われる。(現代法学全集二八巻野村「行政法総論」二〇一頁)

従つて本件除却命令は、その基礎たる「路線認定」が効力を有しない以上、無効といわざるをえない。

(違法行為(一)無効原因(八))

二一、かくて相手方の本件除却命令は明かに法律に反し無効であるから、相手方が代執行を以て組合の所有する本件家屋を強制撤去し抗告人等の居住権及び営業権を侵害する行為は憲法第三十一条違反ということができる。

二二、憲法第三十一条は「何人も法律の定める手続によらなければその生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定する。

本条の適用範囲については、これを手続のみに関するものと、手続に限らず実体をも含むものと、自由の制限一般に関するものと、広狭さまざまに解釈されているが、本条はアメリカ憲法の、

「法律の適正な手続」の条項を承継したものとして広い意味の自由の保障を規定していると解すべきである。

二三、けだし、そのいづれの意味と解するを問わず行政力により、国民の居住権を侵し営業権を奪い、国民をして路頭に迷わしめるが如き「法律の適正なる手続」によらざる限り、本条に違背する結果となることは洵に明白である。

(違憲行為(二)無効原因(九))

二四、憲法第二九条は「財産権は、これを侵してはならない。財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律でこれを定める。私有財産は、正当な補償の下にこれを公共のために用いることができる。」と規定する。

本条は、財産権の不可侵を保障する原則を明かならしめたものでもし私有財産を公共のために用いる場合には、正当な補償をしなければならないことを示したものである。

而して、右財産権を侵してはならない者は、個人ばかりでなく国家といえども然りである。

ところが本件においては、前に経過事実に述べたように、相手方組合の所有する建物を本件土地から撤去するため、無理に道路法第七十一条を適用して本件除却命令を発し、以て憲法第二九条第三項の定める損失補償を免れようとしており、換言すれば、補償免脱のために道路法を悪用するものであるから、本件除却命令は、憲法第二九条に違反しているといわざるをえない。

二五、また本件除却命令は、組合及び組合員等のみに課せられた「特別の犠牲」である。

(A) これを形式的に見れば、組合及び組合員にのみ課せられた個別的な権利侵害であり、

(B) これを実質的にみれば、通常の負担以上に財産権の本質たる排他的支配を侵す行為として、その侵害の軽重と範囲、即ちその本質性及び強度において財産権の社会的制約の範囲を越えるものである。

(C) 従つてそれは「特別の犠牲」である。

二六、憲法第二九条第三項は、単に立法の指針たるの性質を有するに止まるものでなく、それ自体実定法としての性質を有するものと解すべきであるから、これに基いて現実に正当な補償を与うべきこというまでもない。

従つて、たとえ、収用目的に違憲なく、行政権の行使が適法であつたとしても「正当な補償」をすべきであり、もし、当該法規に補償規定を欠く場合においては直接憲法に基いて補償の方法を講ずべきである。

この点、ワイマール憲法第一五三条においても明らかに規定しており、又、アメリカ合衆国憲法修正第五条の解釈としても是認されている。されば、日本国憲法の下においても之と別異に解すべき特別の理由を見出しえない。

二七、にもかゝわらず、被告が補償責任を免るゝ便法として本件の場合に道路法を適用したのは違法も甚だしいといわざるをえず、明かに憲法本条の違反行為といえる。

(違憲行為(三)無効原因(一〇))

二八、日本憲法第十四条は「すべて国民は法の下に平等である」旨を規定する。

本件除却命令の対照となつている同一条件の家屋は十三棟(一三三駒)で内本件家屋十一棟(一一五駒)が組合に属し、他の二棟(十八駒)は他の組合に属している。

相手方は、右目的物件のうち、組合所有の本件家屋に対してのみ代執行をしようとし、他組合所有の二棟については、これを代執行の対照としてはおらない。その上組合所有家屋を借用している抗告人に対しては、前述のように特別抗告及び訴の取下を強要し、若しこれを取下げないときには代執行を強行するといつて、遂に訴の取下に応じない抗告人等に対しては、その使用部分を強制力を用いて取壊した。

二九、日本国憲法第三十二条は「何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。」と規定する。

然るに相手方は、本件除却命令による代執行の延期について特別抗告の申立の取下及び本訴の取下を抗告人等に強要し、右相手方の申出を受諾しない者に対しては取壊を強行することは洵に惨酷である。

これは要するに、相手方は本件除却命令の違法性並に違憲性を察知しながら、あえて強制手段に及んでおることを裏書するもので、本件除却命令は国民の享有する基本的人権を剥奪しようとする違法かつ違憲の行政行為たること明かである。

(緊急性について)

三〇、本件家屋十一棟はその所有権は組合に属し、その包含する一一五駒の商店は、原審申立人一〇五名の小商人及び六四三人の家族及び従業員の生活の本拠である。これを正当な行政権の行使によらず、しかも補償を与えないで破壊除却するときは、右大量の市民の生活は直ちに危機に瀬することはいうまでもない。これを緊急性がないという原審裁判所の認定は謬りがある。

よつて右原決定を取消し本件代執行を停止する旨の御決定を賜り度く、本件抗告の申立に及んだ次第であります。

(別紙目録省略)

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